20歳代に限界に挑戦すること

 職業人としての能力育成上、20歳代はとても重要な時期である。現代の日本社会では、大半の人は20歳を過ぎてから働き始める。学校を卒業して社会人と しての第一歩を踏み出したとき、まず学ばなければならないのは職業人としての作法である。報・連・相に始まり、言葉遣い、顧客との接し方、組織内での動き 方など、学校で教えてくれなかった多くのことを学ぶ。これは、職業人としての立ち居振る舞いという意味で、「作法」と呼ぶのがふさわしい。

 入社後最初に任される仕事は単純作業である。コピーをとったり、書類を運んだり、資料を整理したり、一見、どうでもいいような仕事から始まる。し かし、誤解してはならない。それらの仕事は、将来の大切な仕事の基礎トレーニングになっているのである。コピーをしながら書類の内容を見る。資料整理は、 仕事上必要とされる文書のまとめ方を知るきっかけになる。単純作業だとおろそかにしてはいけない。学ぶ気があれば、一見単純に見える作業から学べることは 多い。


 ある程度仕事がわかってくるのは入社して3年を経過した頃である。年齢でいうと20歳代の半ばだ。知識や経験は未熟だが、体力は十分ある。知識のなさを 体力と馬力で補える年齢である。入社3年を経過した頃から、少しずつ大切な仕事を任されるようになる。一人で判断できる範囲も少しずつできてくる。そのと きに注意しなければならないのは、仕事の基本は先輩や上司をまねることから始まる点である。仕事も芸事と同じで、師匠のやり方をまねて繰り返し実践し、基 本動作を自分のものにしていく必要がある。


 仕事のオリジナリティを求められるのは、もう少し進んでからの話である。最初からオリジナリティを出そうなどと思わない方がいい。オリジナリティは、基 礎ができて初めて可能になる。基礎のないオリジナリティは、単なる我流、独りよがりに過ぎない。基本がしっかりできた上に、ちょっとした工夫を加えること でオリジナリティが出てくるのである。


 20歳代の半ばを過ぎると、仕事のしくみがわかってくるので仕事がおもしろくなる。基礎トレーニングをしっかりやっておけば、ムダな動作がなくなるので 仕事に工夫を加える余裕が出てくる。そうなったら自分の限界に挑戦してみるといい。「寝食を忘れて打ち込む」というが、まさにその状態である。自分のテー マを上司と十分話し合った上で決めて、それにとことん時間と労力をかける。残業や36協定は無視して、納得いくまで追究する。このような時期を3年くらい 経験することが重要である。


 研究者にも同じことが言える。20歳代の大学院時代に一日12時間以上、場合によっては14時間も15時間も勉強する時間を持たないと研究者としては大 成しない。気力、体力、知力の限界に挑戦しておけば、自分がどこまで頑張れるか、自分の力はどのあたりまで続きそうかがわかってくる。人間の能力には個人 差がある。体力にも個人差がある。二日くらい徹夜して平気な人もいれば、ドイツの哲学者カントのように一日12時間寝ないと頭が動かないという人もいる。 自分の限界を知ることは、自分なりのスタイルを作っていく上で大切なことである。


 20歳代にこのような経験をした人としなかった人では、30歳代以降に差が出てくる。限界を知り、自分なりの仕事のスタイルを確立できた人は、困難に直 面したときに余裕を持って対処できる。ここまでは自分でできるが、これを超える部分は難しいから他の人に支援を頼もうといった段取りが可能になる。仕事は 一人ではできない。周りの人に助けてもらって初めて、いい仕事ができるのである。しかし、最初から助けてもらうことを望んでいては誰も手を貸してくれな い。自分の限界まで打ち込んでいる人は自ずとわかるものである。そういう人を周囲は放っておかない。それが組織であり、それが仕事である。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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