新入社員をめぐる七五三のとらえ方―若者はなぜ簡単に会社を辞めるのか?

「七五三」の実態


 『平成19年版青少年の現状と施策』によると、2003年度末の新卒者の3年以内の離職率は、中卒70.4%、高卒49.3%、大卒35.7%であっ た。これをとらえて「七五三」と言われる。この現象は、今に始まったことではなく、20年以上前から指摘されていた。ただ、大卒の場合、以前は20%台の 四捨五入で「三」だったのが、最近は30%台の四捨五入で「三」になっていた。それが、数年前から、四捨五入すると「四」になってしまうところまで上昇し ている。


転職理由


 転職自体は決して悪いことではない。適職をみつけるために、複数の会社を経験するのは合理的な行動だと言える。問題は転職の理由である。労働政策研究・ 研修機構が2006年秋に35歳未満層を対象として実施した調査によると、従業員調査(転職経験のある人に対して前職の離職理由を質問)では、「給与に不 満」が26.6%で最も多く、次いで、「会社の将来性・安定性に期待が持てない」(22.6%)、「労働時間が長い」(21.8%)、「仕事上のストレス が大きい」(21.7%)となった。他方、失業中の求職者を対象とした調査では、「仕事上のストレスが大きい」が27.2%と最も多く、次いで、「労働時 間が長い」(20.4%)、「職場の人間関係がつらい」(19.4%)、「肉体的・精神的に健康を損ねた」(15.4%)、「結婚、出産・育児のため」 (14.6%)となった。


 給与、会社の将来性、労働時間、ストレス、職場の人間関係など、理由はさまざまである。ただ、注意しなければならないのは、これらが本当の離職理由かど うかわからない点である。失業者にキャリアカウンセリングをしていると、表面的な離職理由と本当の離職理由が異なることがよくある。表向きは「給与が不満 だった」としても、本当の原因は、職場でいじめにあっていたとか、人間関係がつらかったといった場合がある。どんな理由であれ、十分考え抜いた上での離職 であれば批判されるものではない。問題なのは、一時的な気まぐれで離職することである。


発展的転職と問題転職


 若年層の中には、「この会社では自己実現できそうにない」と思って転職する人たちがいる。仕事の中身を十分にわかった上で「この会社は自分に合わない」 と決めたのならいいが、ちょっと気に入らないことがあって衝動的に転職した場合は、同じことを繰り返す危険性が高い。会社の仕組みがだいたいわかり、その 会社の仕事が自分に合っているか否かを判断できるようになるには3年程度かかる。3年くらい勤めた上で、「やはりこの会社は自分に向いていない」と判断し て転職するのは、適職さがしという観点からいいことである。転職には、次につながる発展的な転職とマイナスのスパイラルに入ってしまいかねない問題転職の 二種類があるが、3年以内の転職は、後者になる可能性が高いと考えられる。


企業側の責任


 新規学卒者の転職が増加傾向にあるのは、若年層だけの責任ではない。彼らを受け入れる企業側にも問題がある。一言でいれば、ていねいに育てる余裕をなく していることである。働いていれば、誰しも「やめたい」と思う瞬間がある。私もこれまでに、100回以上「研究者としてやっていけないのではないか」と落 胆し、やめることを考えた。でも、そのたびに、「自分にはこの仕事しかないので頑張ろう」と気を取り直してここまで来た。


 やめたいと思ったとき、以前であれば職場の先輩が指導係としてついていて、次のように言ってくれた。「まあ、そういわずに頑張ろうよ。オレだって、何度 もやめたいと思ったけど、ガマンしてここまで来た。ガマンして働いていると、きっといいことがあるぞ。」ここ10年くらい、採用数を抑えてきたために、職 場先輩を指導係として指名しように適当な社員がいないという会社が増えている。また、そこまでする必要はないという誤った認識を持っている会社も少なくな い。新入社員は放し飼い状態なので、どうしていいかわからなくなり、牧場の外にフラフラと出て行ってしまう。ひとり当たり200万円くらいの費用をかけて 採用したのに、いとも簡単にやめさせてしまうのが今の多くの日本企業である。


 新入社員への対応の仕方、教育のあり方を少し変えるだけで、新入社員の転職は劇的に減ると考えられる。ただでさえ人材が枯渇してきているだから、せっか く縁あって採用した新入社員をもっと大切に育てるべきである。ついこの前まで、私たちはそうして若手を育ててきた。いまならまだ思い出せるはずだ。『論 語』に「過ちては改むるに憚ることなかれ」という言葉がある。誰しも過ちを犯す。過ちに気づいたとき、すぐに直せばいい。日本企業は、いま、人材育成の原 点に立ち返る必要がある。

【資料】労働政策研究・研修機構[2007]『若年者の離職理由と職場定着に関する調査』JILPT調査シリーズNo.36

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール